ぽっかり時間があくと、電車に乗ってふらりと行きたい場所がある。JR横須賀駅と京急汐入駅のあいだにあるヴェルニー公園だ。年に2回、薔薇が咲き誇る季節に友人たちとカメラを持って出かけるのも楽しいが、初秋の切なさを味わいに、一人で歩くのもまた趣がある。
秋雨前線が停滞している9月の連休初日。風がなく蒸し暑い夕方にも関わらず、潮の香りが漂うボードウォークでは様々な人たちがすれ違う。
ショッピングセンターの袋を下げて駅に向かう家族連れ。いつもの散歩コースで立ち話をする愛犬家たち。黙々とジョギングに励む年配のランナー。手をつないで夜のデートに向かうカップル。夏の終わりと共にみんな言葉少なげに思えて、静かな静かな夕暮れだ。
自衛艦から君が代のラッパが聴こえ、艦首の旗を降ろす時刻。足を止めて、横須賀港の対岸にカメラを向けるのは、もう何十回目だろうか。いつもここでは空を大きく、雲を沢山入れて撮るのが私なりのアングルだ。
ベンチに座って文庫本を読んでいた老人が、フアーッとあくびをして横のステッキを手に取った。家には誰が待っているのかなと、「隣は何をする人ぞ」の松尾芭蕉みたいな気分になる。海面からはボラがポチャンと撥ねる音がして、人も魚も夕食の時間がきたようだ。
ショッピングセンターで簡単な買い物をして、またボードウォークに戻ってきたらすっかり空はダークブルー。人の数はグッと減っている。さっき写真を撮ったのと同じ場所でカメラを構え、ふと思い立ってアングルを変えてみた。今度は空よりも、街の灯りがキラキラと映っている水辺を大きく撮ってみた。
こんなことをしているうちに、今年はあと3カ月半でおしまいになる。冷たい頬を埋めるマフラーが恋しくなるころ、肩を寄せる誰かが隣にいてくれたら嬉しいな。小さな祈りをコインのように水に投げて、今日は人懐っこい友人たちが迎えてくれる逗子へと帰ろう。
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