マンションの中庭に、玉すだれの白い花が群れている。
いつから咲き出したのか、身近にありすぎて気づかなかったけれど、この花を見るたびに母方の祖母を思い出す。
共働きで留守がちだった両親が、鍵っ子の私を案じて、四国の新居浜市から祖母を呼び寄せたのは今頃の季節。
家の周りの散策にお供した私に、祖母は目に付く草花や木々の名前を教えてくれた。
むくげ、芙蓉、萩、ケイトウ、葛、カヤツリグサ、ヒガンバナ・・、中でも玉すだれは特にお気に入りだったようで、他家の垣根から覗いている一輪を手折っては、小さな花瓶に生けていた。
小学校から帰ってくると、出してくれるおやつは黒砂糖の「かりんとう」。
私にとっては雷おこしと共に、嫌いなおやつワースト3に入るお菓子だったが、戸棚にはいつもこれ。
聴こえてくるBGMと言えば、『松の緑』や『梅は咲いたか 桜はまだかいな』、2階で祖母が弾く三味線の音色だった。
一人っ子でわがまま放題な私は、早い時期から反抗期。
夜になっても両親が帰ってこない寂しさを、祖母に向けて当り散らした。
いつも「肉野菜炒め」ばかりのおかずには手をつけず、自分で下手な料理を作る。
「かりんとう」が嫌いだからと、おねだりして買ってもらったオーブンでクッキーを焼く。
三味線が年寄りくさいと、階下からステレオをガンガン鳴らす。
ティーンエイジになって反抗期が頂点に達した頃、祖母は再び故郷の新居浜へ帰っていった。
再度会ったのは、大学一年生の時、お通夜の席。
お棺に入った祖母に最後のお別れをするのに、私はどうしても顔を見られなかった。後ろめたさが押し寄せて、下を向いているしか出来なかったのだ。涙が堰を切ることが怖かった。
あれから長い年月が過ぎた今も、玉すだれが咲いているのを見ると胸が痛む。
どうしてあの頃、もっと優しくしてあげなかったのだろうと。
「花盗人は罪にならないのよ」。
在りし日の祖母を真似て、玉すだれの一輪をそっと手折った。
コメント
何かを思い出して心が一瞬痛くなりました。
あまりにそんなことが多すぎて思い出したくないのかもしれない。
今は、老いを前にそのときに何をしているのかと考える。
三味線はひけないな。
tsune2様
若さゆえにカリカリしている時期も、年輪を重ねた人から見れば
昔の自分を見るように許してくれるものなのでしょうか。
私も、祖母の年齢になったその時を考えます。
孫かわいさで、まだ子猫ぐらいにしか思ってないのかも。
yuris22のお父様が大変だったんじゃないですか?
tsune2様
私の父が大変だったかどうか・・。
女道楽で家には週末しか帰ってきませんでした。
耐えるのは女のみの家庭だったかもしれませんが、今さらながら
良かったと思うのは全員明るい性格だったことです。
すいません、ワッシノ大好物でやんすよ
黒砂糖の「かりんとう」「雷おこし」 「イモのケンピと焼酎」 そして「***」!
「過ぎ去ってしまった想い」が、成長の糧なんでしょうね・・・
私も同じです、後悔先に・・・何とやら。
James Byron Dean様
大好物でしたか!
私はどうにも、あの色と形がいけません(笑)
川はミルクティみたいな色で流れてます。
川沿いの植物たちは洪水で枯れて茶色くなり、
岩肌は濁流に表われて石灰質の岩肌は白く輝いてます。
1年もすると川は緑と黒い岩に戻るでしょう。
そんなことで時がたつんでしょうね。
tsune2様
昔のアルバムを開いて祖母の顔写真を見ると、自分に似ているパーツを
発見します。
いつか生まれてくる私の孫も、血筋を引き継いでくれるんでしょうね。
川と緑のように、若々しいパーツを再生して。