寂しさのパーセンテージ

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関東からは99%見えないと思うけれど、今夜は十五夜。
「月みれば ちぢに物こそ かなしけれ わが身ひとつの 秋にはあらねど」(大江千里)の歌が、毎年決まって心にリフレインする。

月の姿に関わらず夏の喧騒が終わると、半袖のTシャツでは薄ら寒くなるこの時期。
長年続けてきた独り身が、クーラーが要らなくなると同時に「ぬくもり」を欲する不安を突きつけてくる。
クリスマスやお正月という幸せイベントが、南半球のように真夏の真っ最中だとしたら、こんな女々しい不安は感じないかもしれないのに・・。

彼岸を過ぎれば、急速に秋は深まりゆく。
最高気温が25度を割ったせいだろうか、大切に育てていたクワガタムシたちが今朝一斉に死んでいた。想像以上の長生きに驚いて、足りなくなった餌をネットで取り寄せたばかりなのに、当たり前のような自然の摂理が彼らを連れて行く。
仕方の無いことと解りつつ、心にまた1つ秋が刻まれた気分だ。

寂しい秋、美しい秋、人生の秋。
クリーニングに出し忘れて丸め込んでいたセーターを羽織り、去年の思い出を嗅ぐ。
窓から見える樹木たちは散り際を前にして、狂ったように赤く黄色く色づく。
「元気かい?」と予期せぬ電話をくれる人の優しさに、歳をとることは満更でないと微笑む。
そんな小さな灯火をどれだけ長く消さずにいられるか、自分を見つめて冬支度をしていく季節。

これまでの経験としては、心のお天気模様で寂しさが50%を超えているほうが、良い作品を書ける確率が高い。
あらゆる作家のうち、そんなことを思うのは私だけかもしれないけれど、ワープロではなく原稿用紙に向かい始めた当初から感じてきたことである。

あと2ヶ月もすれば、北風にクリスマスソングが流れる街。
これから仕事を抱えて渋滞の道路を走り、急ぎ足の人ごみに飛び込んでいく。
今年は実りの秋になりますように。

追記:午後6時50分

昨夜聞いた天気予報は外れだった。

濃紺の空にぽっかりと浮かんだ仲秋の名月。
こんなに落ち着いて見たのは何年ぶりだろう。

十五夜

コメント

  1. James Byron Dean より:

    現在21時12分 仲秋の名月を鑑賞。
    御蔭様で、鏡のようなお月様を久々に見る事が出来ました、ありがとうございます。

    この秋は、「命を育む秋」としましょう。
    夏の喧騒が過ぎ、自然は命を次の世代の渡す準備をするのが「秋」(と勝手に感じてる暇な亭主)

    「冬」それを大切に温める季節 そして「春」「夏」・・・

    さぁぁ もう一度 青春だぁ~~~!!!

  2. yuris22 より:

    James Byron Dean様

    「命を育む秋」、いい言葉ですね。
    木々も動物たちも、やがてやってくる厳しい寒さに耐えながら、
    命が輝く春を待つのだと思います。

    自然と共に長生きしましょうね、私たち。

  3. Willoe Road より:

    寂しさ、孤独感とどう向き合うかはその人の人生観や価値に大きく影響すると昔ある方に言われました。あらゆる感情には無駄なものがないと信じていますが、寂しさという感情と向き合うことで自分は何が発見できるのかこの年になってもまだわかりません。寂しさを文章という形にして前に進められるyuris22さまがうらやましい。

  4. tsune2 より:

    いい夜だったんですね。
    忘れてました。
    今日は、ビールに日本酒。

  5. yuris22 より:

    Willoe Road様

    恋人や友人を亡くしたことで、どんなに取り巻きがある人たちでも
    独りで死んでいくんだと痛感しました。
    人間は究極の寂しさに向かって、生きているような気がします。

    それだからこそ目に入る自然は美しいし、誰かのぬくもりが温かい
    のでしょうけれど・・。

  6. yuris22 より:

    tsune2様

    夕べは目をこらして「月のうさぎ」を探してしまいました。
    ビルに囲まれた四角い空でないことに感謝。

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