夜の電車に独り乗るとき

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すいている夜の電車が哀しくて好きだ。それは独りで乗らなくてはいけない。

ローカルな始発駅から、長椅子の端にポツンポツンとお客を乗せて動き出す電車。
本線から分かれて曲がりくねった線路を走る、1時間に1本しかない赤字電車。
名前も知らない駅に到着するたびに、ホームの灯りが消えていく最終電車。
そんな電車たちは古い歌のように、夜汽車と呼びたい風情がある。

乗る季節は木枯らしの冬。寒々しい蛍光灯。
コートのポケットに両手を入れて、ヒーターのきいた椅子に座ると、独りぼっちが少しだけ温まる。脇に座布団を抱えた運転士がホームを歩いていくのを見て、出発の時間が近いことを知る。

ブザーの音がしてドアが閉まれば、ゴトン・・・・・ゴトン・・・・ゴトン・・ゴトン。
足元から聞こえてくるリズムがだんだん速まるにつれ、窓の外の灯りが少なくなっていく。
やがて目をこらしても何も見えない闇の連続。瞼を閉じる。

私はどこへ行くのかな。それともどこかへ帰るのかな。
まるで人生を旅しているような夜汽車。途中下車すればもう二度と乗ることが出来ない。
冬の向こうにある終着駅に着いた時、迎えてくれる声は「いらっしゃい」だろうか「お帰りなさい」だろうか。

深夜の駅

プシュンと音を鳴らしドアが開いた。慌ててホームに降りれば見慣れた駅名と、階段を上る乗客たちの背中。いつの間に眠っていたのか、乗っていたのは都心からベッドタウンへ下る通勤電車だった。

今夜も「ただいま」はMY HOME TOWN。改札口を出たら馴染みの居酒屋に顔を出そう。女将さんの号令で、お尻をずらして席をひとつ作ってくれる常連たち。彼らがますます温かいから、夢の夜汽車は遥か遠い線路を走っている。

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