必ず訪れる死について

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人は生まれた瞬間から死に向かっている。恋をしたときから別れに向かっている。
愛妻・南田洋子さんを失った長門裕之さんの会見を見ながら、やるせなさが止まらなかった。明治座での公演中、訃報は風のように耳に入ってきたという、その心理がよく判る。

3年前の6月、恋人の危篤状態が続いていたとき、私は毎晩フィットネスクラブに通っていた。家庭のある人だったので病室で看取ることは出来ず、かと言って彼の死を家で待つのが嫌だったからだ。数日前、友人たちの計らいで最後のキスも終えていたし、モルヒネで朦朧としながら「愛してる」と何度も言ってくれたのが全身全霊のメッセージだと思った。

運動を終えたロッカー室。携帯電話に届いている「○○時○○分でした」という友人からの伝言を聞いたとき、なす術もなくシャワー室に向かった。頭からお湯を浴びて、風のような訃報を頭の中に繰り返しながら、不思議と涙は出ない。末期がんの治療法はないものかと藁にもすがる情報を模索した日々が終わり、あっけない自由が訪れた。

身体から魂が永遠に去ってしまった恋人は、もう私が知っているあの人ではない。彼の遺影を見たくない気持ちが、そのまま恵比寿から逗子の家へと車を走らせる。お通夜にも告別式にも行かず、朝な夕な空を見ていようと決めた。

「そこにいるのは僕の洋子ではない。元・洋子の骸だ」
「もう無機質なものだと思っています。僕の洋子に手を合わせるのは思い出の中だけなんです」
長門裕之さんは、亡骸となった洋子さんにはキスをしないという。「僕は死に対する恐怖感と拒絶反応がすごいんです」と正直に死を語った。酸素マスクと点滴の管をつけ、まだぬくもりがある妻に、100万べん別れを告げたのが臨終のときだったのだろう。

医学が進歩して寿命が延び、この先何歳まで誰のために生きるのかな。16日に自ら命を絶った加藤和彦さんの遺書にあった言葉、「死にたいというより、生きていたくない」が心に引っかかる。やるせない厭世観は砂を噛む味だ。
折りしも太宰治を読みふける私を心配して、友人が「元気か?」と逢いに来てくれた。「大丈夫。根性なしですから自殺なんて絶対に出来ません。どうしてもの時は餓死します」と笑って返す。

根性なしの私にとって妥当なのは、「順調に歳を取って早く死にたい」。これは作詞を教えてくれた師匠が酔っ払うたびに言っていた口癖で、「順調に」とは死の直前まで健康であることを言うのだろう。自分の手も人の手も煩わせない死に方だ。

向こうの世界に行ったら大好きな彼に会える楽しみを抱えながら、今は温かい血が流れるこの身体を愛おしもう。少なくとも生後6ヶ月の猫が寿命を全うするまでは健康体でいなくちゃと、10数年先までの自分に言い聞かせている。

コメント

  1. 松崎 より:

    初めまして。
    散歩中に立ち寄りました。
    3歳の時から衣を着ています。
    あれから40年が過ぎ未だに生きること・死することへの意味を
    模索しています。
    食べる為に生きる人の定めの中で、もがき、喜び、悲しみ・・・
    多くの出会いの中で生まれる、幸福感と虚無感を味わいながら、
    今なお生き延びている我が身を持て余しています。

    人の道を学ぶ僧侶もまた、悩み多き迷い人なのです。

    不幸せとも幸せとも付かない時間の狭間で、何時訪れるのかわからない
    終焉の時までを豪快に生きたいと思うのみです。

  2. yuris22 より:

    松崎様

    いらっしゃいませ。
    自分が生きている現世と、死して向かう来世と、どちらが本物なのかと考えます。災難が続いたときに神を恨む人がいますが、来世で幸福を手に入れるための下積みだとしたら、ありがたい経験をさせて戴くことになるのでしょう。

    表と裏、陽と陰、幸福と不幸、生と死はどこが違うのか。正解は自分の認識と全く逆かもしれないと、ひとり禅問答をしております。自分の身さえ世話しきれない不器用さを、このようなブログで綴っていくことが捌け口ではありますが・・。

  3. Martin より:

    ガンで亡くなられた方とは不倫関係だったんですね。
    不倫相手のことを恋人という感覚が理解出来ません。
    お父様の愛人問題で色々と辛い思いをされてきたことと思いますが、なぜそんな方が愛人になってしまわれたんですか?

  4. yuris22 より:

    Martin様

    故人の複雑な家庭事情についてはあえて記しませんが、日本語の愛人は金銭がらみの響きがあるので、恋人と書きました。関係的には親友と書いたほうがしっくりするかもしれません。ずるいと言われようが、結婚願望は皆無だったのです。

    父には文字通りの愛人が8人いて、私の実母が家を出た後、1番目が継母の座に収まりました。すると始まったのは、次に連なる愛人たちとの壮絶なバトル。誰が多く金銭を貰っている云々の嫉妬に、「結婚なんてするもんじゃない」と父が私にこぼしていたのを思い出します。「お前は適当に遊んでおけよ」とも言われましたね。
    良いのか悪いのか、「ひとり時々恋」が今の私が選んだスタンスです。

  5. marie より:

    先日、金スマで長門さんと洋子さんの番組やってましたね。
    とても泣けました。あんなにも愛する事が出来るものかと。けれども、順風万班に見えてた夫婦でも実は色んな試練や悩みがあるものなんですね。
    最近では世の中の夫婦が離婚するのが珍しくない感じになってますが、長門さん夫婦を見ていると考えさせられますね。洋子さんが亡くなってどんなに悲しんでいるんでしょうね。
    けれども、「俺は洋子が心配で洋子を見送らずには自分が先に逝く事は出来ない」と言っていたので、見送る事が出来た事だけでも救われているのではないでしょうか?

  6. yuris22 より:

    marie様

    洋子さんが奇跡的に、10分だけ認知症が回復した映像を見ました。本当に可愛かった。芸能人は良くも悪くもカメラに追いかけられる宿命がありますが、あの映像は長門さんにとって一番の宝物になるでしょう。お2人の愛に涙が出ました。

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