いい人はもうやめた!

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独りでは勇気がなくて、どこの飲食店にも入れない女性がいた。還暦を過ぎて孫のいるバツイチシングル。度胸がないのかカマトトか、頼りなげな彼女の微笑みを見ながら、お節介な私はつい口に出してしまった。
「行きつけのお店を全部紹介するね。一緒に行ってるうちに顔を覚えてもらえば、1人でも入れるようになるから」
そして溜まっている仕事を先延ばしにして、律儀に約束を実行していったのである。

前夫から資産を貰ったという彼女は悠々自適な生活をしている。高級マンションに住み、巻き髪とマニキュアを欠かさず、アンティークを買い集め、バブル時代の恋愛話を繰り返す。プライドを掲げて生きているからこそ、誰かのエスコートなしには飲食店に入れないのだろう。

一緒に行動して1ヵ月。マイフェアレディの逆バーションみたいなレッスンを積ませた彼女を、毎週末に常連が集まって飲み騒ぐ小さな食堂に連れて行った。安焼酎をプラコップにドボドボと注ぎ、大皿をみんなが箸でつつき、男たちの下ネタ話が飛び交う店。お世辞にも綺麗とは言えない環境。私も当初はあまりの場違いさに戸惑うしかない店であったが、一年以上誘われて通い続けているうちに、家族付き合いが出来るようになった心温かい店である。

初めのうちは私が彼女に電話して無理やり誘い、やがて「今夜はあそこへ行くの?」と彼女からリクエストが来るようになり、私が行かなくても彼女は1人で顔を出すようになり、そして今は・・。何が起こったのか知らないが、私は常連たちから呼ばれることがなくなり、ランチを食べに行っても店主の態度がよそよそしい。全く理由が分からなかった。

そして最近、彼女をよく知る人から忠告が入った。「お人好しもいい加減ににした方がいいですよ。彼女は貴方を妬んで、自分が成り代わりたかっただけなんだから」と。二の句が出なかった。

年長者には優しくしたい、礼儀を尽くしたい。でも相手が「私、何も知らなーい」と、弱いふりをして人を利用することに長けていたら???まんまと利用され、笑っちゃうくらいお人好しな自分に涙が出た。「面従腹背(めんじゅうふくはい)」という諺が頭に浮かび、だんだん腹が立ってきた。

そして2月末。チリに大地震が起こり、津波が日本に押し寄せた。「津波にやられちゃえ!」と冗談で言っていた彼女の住まいは、もしも気象庁の予測通りだったら波に飲まれる場所にあった。私はドキドキしてNHKを見続け、夜になって安堵の溜息をつくまでは仕事が手につかなかったのである。無事で良かった。地震と津波で被害に見舞われた人たちにも申し訳ない。

だから結論。いい人はもうやめた!
人は見かけによらぬもの。弱々しく見える人を助けたい気持ちは、私の奢り高ぶり。人を助ける前に自分を助けなきゃ!なのだ。でもやっぱりお人好し。彼女の道と私の道とは永遠に交わることはないと思いつつ、「お久しぶり」の電話が来ることを待っているのだから、救いようがないお馬鹿さんかも知れないな。

コメント

  1. 華梨 より:

    こんにちは。
    嫌ですね~、そういう醜い人って。海外在住なので、私もウンザリするほど利用されます。逆に些細なことで妬まれるのでやり切れないです。右も左もわからない新参の日本人を手助けするのが表の顔で、じつは可哀想で困っている日本人を見るのが大好きな古参もいますよ。だから最近はノータッチ!

  2. 猫太郎 より:

    めちゃゆり子さんの気持ちわかります!
    私もそうです。親切にすればするほど悪口とか噂とかひどくなります。 なんか私しましたっけ? です。
    最初だけ私に寄ってきて、自分が会社に馴染んだら、私の悪口。
    もううんざりで…。 いつか一人でいいから私を受け入れてくれる人に出会いたいです。
    噂とかじゃなく私の真実を見てくれる人に…。

  3. yuris22 より:

    華梨様

    陰湿なのは日本人だけかと思っていたら違うんですね。そういう人に対し、変にご機嫌を取ろうとする自分が見えてしまったらもう自己嫌悪。精神衛生上も、ほんとにノータッチに限りますね。

  4. yuris22 より:

    猫太郎様

    論語に「君子は和して同ぜず、小人は同じて和せず」という一節があります。上に立つ人間は人の話を聞いて和を大切にするが、安易に他の意見に同調しているわけではない。それに対してダメ人間は簡単に付和雷同するが、決して周りと和しているわけではない・・という意味です。

    猫太郎さんが不快に思った方は「小人」の部類に入る人でしょう。悪口に同調する人たちも含めてね。人間が小さーい!と無視していればいいのです。猫太郎さんが目線を高くすれば、理解してくれる君子たちが一人とは言わず沢山いると思いますよ。ちゃんと見てる人は見てます。わざわざ口に出さないだけ。微力ながら私も応援させていただきます。

  5. 猫太郎 より:

    ありがとうございます。 そうですよね。私は私。 きっと仏様はみてごじゃるですよね!
    そう信じてます。

  6. 菜多里 より:

    「お人好し」は、真のお嬢様の特徴だそうですよ。普通人は、なかなかお人好しにはなれないらしいです。

  7. yuris22 より:

    菜多里様

    普通人ではない、お人好しのお嬢様といえば「嫌われ松子の一生」を思い出します。またDVDを借りて観てみようかなと思います。

  8. はらん より:

    お久しぶりです。
    今のゆり子さんには必要のなくなった場所、人達だから
    必然的に手放すことになっただけかもしれませんよ(^w^)
    だって、必要な物って必要な時に必ず目の前に現れますもん♪

  9. yuris22 より:

    はらん様

    ありがとうございます。その通りですね。
    実は昨年末ごろから、人間関係に変化が現れてきました。それ以前にも害を及ぼす人は自ずと排除されていたのですが、もっと顕著に兆候が現れるようになったのです。はらんさんが仰るとおり、今は必要なもの、本当のものだけに囲まれています。後ろを見てはいけませんね。反省!

  10. こまちゃん より:

    ゆりさんらしいエピソードw
    孔子曰く「巧言令色鮮仁」だそうで。
    お人好しは疲れますよね。
    でも、好かれるからこそこういうことになるのかなw

  11. yuris22 より:

    こまちゃん

    この程度で怒っていては「文質彬彬 然後君子」には成れませんね。時が答えを出してくれるでしょう。

  12. Manta より:

     鶴岡八幡宮の本殿前の大銀杏(隠れ銀杏)も今朝倒れてしまったそうです。

  13. yuris22 より:

    Manta様

    実は鶴岡八幡宮の大銀杏を確認しに行こうと思いつつ、東京から遊びにきた友人と飲んだくれてしまった午後でした。でも隣の席から話に加わってきたお客が、これから見に行って撮った画像をメール添付してくださるとのこと。何かの縁だと感謝しつつ、天変地異の近づいている現状を思わずにいられません。

    実は昼間、材木座海岸の名所・和賀江島を見に行ったら、台風の影響でしょうか、石碑が消え失せていました。どんなメモリアルパワーも自然には勝てないことを目の当たりにして、備え在れば憂いなしを再確認したいと思っている今日でございます。

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