ラブソングを煮込む鍋

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送られてきた小冊子に、『筑紫の女王』と呼ばれた大正時代の歌人・柳原白蓮の生涯が載っていた。

大正天皇の従妹として名家に生まれ、15歳で政略結婚。苦痛に耐え切れず5年で出戻ったあとは、また親の言うままに25才年上の新興財閥と再婚。
人形のような暮らしの中で、秘めた情熱を趣味の短歌に傾けることだけが唯一の幸せだった。

やがて7歳年下の帝大生・宮崎龍介と恋に落ちて子供を宿し、姦通罪を覚悟で出奔。幽閉の身となった2年後に再会を果たしたものの、龍介は結核に倒れて苦闘は続く。
華族の身分は剥奪されて平民となり、育児や看病に明け暮れながら、短歌・自伝・戯曲・エッセイ・・と文筆の才能を開花させた波乱の人生である。

身を焼くほどの恋を筆に託した白蓮の歌。
「ひるの夢あかつきの夢夜の夢 さめての夢に命細りぬ」
「わが命惜しまるほどの幸せを 初めて知らむ相許すとき」

 

私は彼女の足元にも及ばないちっぽけな文筆家だが、愛を求める情熱はいつも文章を書く原動力となっていた。想像力だけでラブソングを作る実力はなくても、愛の泣き笑いの経験はストックされて、魔法の引き出しとなっている。

困るのは作品を見たパートナーに「これは誰のことだ?」と聞かれること。
背景となるロケーションや小道具、登場人物をチェックされても、イコール誰それとは結びつかない。魔法の引き出しは思い出ごとに整理されているのではなく、素材が追加されるたびコトコトと煮え続けているシチュー鍋だからだ。

だから私は彼に言う。「これはあなたの事だわ」と。
詭弁だと笑われようが、通り過ぎていった恋たちは人生の鍋の中でミックスして、今ここにある愛という味になっている。過去があるから現在の私があり、幸せの絵図を描きたい未来がある。どれも同一ライン上なのだ。

 

二人でいれば喧嘩することもあるだろう、激しく抱き合うこともあるだろう、年老いて命の岐路に立つこともあるだろう。
愛する人に看取られて、81歳でこの世を去った柳原白蓮のように、出来れば今の恋がシチューの最後の素材であってくれたらと願っている。

     シェラザード

ゆらゆらと目を閉じて 麝香(じゃこう)の香り
肌を溶かす 月かげ
からみつく薄衣(うすぎぬ)は あなたの指を
罠に誘う Persian Blue

   おんなはシェラザード 千夜一夜の
   恋がつきれば そのいのち 終わるの

漂流(なが)されて 砂の海 刹那の夢を
夜ごと すべる 箱舟

   おんなはシェラザード 千夜一夜の
   恋がつきれば そのいのち 終わるの

よろこびは 罪の色 みじかい運命(さだめ)
だから もっと はげしく・・・

          Copyright by Yuriko Oda

コメント

  1. muha より:

    取り急ぎ 南西222゚に縦2つ☆ ☆ 並んで微笑んでます。あなたさまの星の金貨では 敬具

  2. yuris22 より:

    muha様

    ありがとうございます、発見しました!
    南西の風の中に、キラキラと合図しています。さっそくお喋りしてみます。

  3. 風小僧 より:

    yurisさんの思いのままの人生であることを願います。
    過去より未来、今日も新生・・・毎朝、心に思うことです。

  4. yuris22 より:

    風小僧様

    思いのままの人生でありすぎて、人に迷惑をかけることもしばしばです^^;
    それでも独りじゃない現在を感謝しながら生きています。

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