昔に戻れる魔法があったら・・

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完全無罪を獲得した菅家利和さんの表情が頭から離れない。裁判中に親は亡くなり、生家は既に取り壊されている。雑草だらけの空き地に立って取材に応じ、話し相手は誰もいなくなってしまったと力なく笑った。日本人は途方に暮れると、元気なそぶりの表情を見せる癖があるという。他人を不快にさせないための作法だというが、感情を押し殺した微笑があまりにも切ない。

もう戻ってこない17年半。刑務所で冤罪の日々を過ごした菅谷さんとは比較にもならず、私は好き勝手をやって歳を重ねたが、もしも魔法使いが望んだ年齢に戻してくれるとしたら、何歳がいいだろうと想像にふけることがある。

例えば小学一年生。内向的だった性格を改めれば、もっと友人ができたかもしれない。
進路を選ぶ高校時代。もっと勉強を頑張れば、大臣や外交官になっていたかもしれない。
作詞の仕事を始めた20代。もっと書物や音楽、映画、舞台をむさぼっていれば、大御所になれたかもしれない。

やがて記憶は脳卒中で倒れた父や、癌で亡くなった恋人の顔で立ち止まり、もっと健康に気を使ってあげれば良かったと後悔する。

そんな時間旅行のあと最後に浮かぶのは、今の自分を取り巻く友人たちの顔だ。腹が立てば怒鳴りあい、悔しさがつのれば泣き、翌日にはお互いをからかいながら大笑いする関係。これまで歩んできた人生には後悔が多々あるが、幸いにも今は独りじゃない。若い世代が後ろにつかえているんだもの、人間は前へ前へ進むしかないんだよねと、共に励まし老いていく仲間がいる。

空き地で空を仰ぐ菅家さんは、2年前に亡くなったお母さんの年齢よりも長生きしたい、それが親孝行だと語った。人生は二度ないが、失った17年半より未来はもっと長い年月。心の底から笑う顔がいつか見られることを、同じ日本の同じ時代に生きている仲間として祈っていたいと思う。

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